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千葉地方裁判所 昭和37年(ヲ)470号 決定

決   定

千葉県市川市新田町二丁目三七六番地

異議申立人

原川健一

東京都江戸川区小岩町四丁目一、九八六番地

相手方

田代繁

右異議申立人は、当裁判所が、債権者田代繁、債務者兼所有者原川健一間の昭和三七年(ケ)第一三号不動産競売申立事件について、昭和三七年三月六日為した、別紙目録記載の不動産に対する不動産競売手続開始決定に対し、異議を申立て、右競売手続開始決定を取消し、相手方の為した右不動産に対する競売の申立を却下する旨の裁判を求めたので、当裁判所は、次の通り決定する。

主文

本件申立は之を却下する。

理由

本件申立の理由は、

申立人は、昭和三七年五月一〇日、申立人が相手方に対し負担して居る本件債務金額金七五四、六五〇円(内訳、元本債務金六五〇、〇〇〇円、利息損害金債務一〇四、六五〇円)を支払ひ、相手方は異議なく之を受領したので、本件の基本債権は、その全額が、弁済によつて、消滅に帰して居るものである。而して、基本債権が消滅に帰して居る以上、競売手続は之を為すことの出来ないものであるから、本件申立に及んだ次第である。

と云ふにあつて、右異議申立人主張の日に、その主張の弁済の為された事実は、本件記録によつて、之を肯定し得るところである。

仍て、按ずるに、本件記録によると、別紙目録記載の不動産に対する競売手続は、前記競売手続開始決定に基いて、その進行が為され、昭和三七年五月一〇日、その競売が実施されて、件外松島勉が最高価競買人となり、同月一七日、右件外人に対し、競落許可の決定が為され、右異議申立人は、之に対して、即時抗告を為したのであるが、抗告理由を主張せず、又、何等の疏明をも提出しなかつたため、右即時抗告は、同年七月一八日、東京高等裁判所第七民事部に於て、棄却され、その棄却の決定が確定し、之に伴つて、右競落許可の決定が確定に帰して居ること、及び右即時抗告が為されたことによつて、右競落許可決定後の手続が進行せず、その為め、右競落代金の支払が未だ為されて居ないことが認められ、而して、前記認定の弁済が前記認定の日に為されたことは、抗告人である右異議申立人が抗告審に於て主張しなかつたこと、右認定の通りであるから、右抗告棄却の決定の確定した現在に於ては、右異議申立人は、右認定の日に右弁済の為されたことを主張し得ないものであると解するのが相当であると云ふべく、従つて、本件に於ては、右弁済は、右競落許可の決定が確定した後に於て、為されたものであると云ふ外はないものであるところ、未だ、競落代金の支払が為されて居ないことは、右に認定した通りであるから、右不動産の所有権は、未だ、前記競落人に移転して居ないものであると云ふべく、従つて、競落代金の不払による再競売の為される機会が絶無であると云ひ難く、而して、斯る場合に於ては、旧大審院の判例によると、競売手続開始決定に対する異議の申立を許容すべきことになるのであるが、右判例がその理由として挙示して居る諸点は、当裁判所の首肯し難いところであるから、右判例に従ふことを得ず、而して、当裁判所の見解によれば。競落許可の決定は、その確定によつて、競落代金並に競落人を確定し、之によつて、換価の基本を確立するに至るものであるから、競落許可の決定の確定に至るまでの手続は、競売手続に於ける根幹的手続であると云ふべく、(その後に続く競落代金の支払及び代金の交付等の手続は、右根幹手続に附随して為されるところの清算的手続であるに過ぎないと解される)、而して、右決定の確定後に生じた事由を以て、既に生じた根幹的手続の効力を左右し得るものとすれば、それによつて、競売手続を無意義ならしめることに帰着するのであるから、その様な事由を以てしては、既に生じた根幹的手続の効力を左右し得ないものと解するのが相当であると云ふべく、従つて、右根幹的手続は、前記決定の確定によつて、その効力が確定し、右決定の確定後に生じた事由を以てしては、その効力を左右し得ないものと解せざるを得ないものであるところ、弁済は、その為された時に於て、債権消滅の効力を生ずるに過ぎないものであるから、右決定の確定後に為され弁済は、右決定の確定後に生じた事由であるに過ぎないものであると云ふべく、従つて、右決定の確定後に為された弁済は、右確定した根幹的手続の効力を左右し得ないものであり、一方、競落人の地位は、右決定の確定によつて、確定的に付与せられるものであるから、確定した右決定の効力が左右されない限り、当然に維持せられるべきものであるところ、右決定の確定後に為された弁済は、既に生じた右根幹的手続の効力を左右し得ないものであること右に説示の通りであるから、右弁済によつては、競落人の右既得の地位は、影響を受けることのないものであると云ふべく、而して、本件競売手続に於て為された競落許可の決定が既に確定して居ることは、前記認定の通りであるから、右手続に於ける根幹的手続は、之によつて、その効力が確定して居るものであるところ、右異議申立人の為した弁済が、右決定の確定後に為されたそれであると云ふ外はないものであることは、前記説示の通りであるから、右弁済は、既に生じた右根幹的手続の効力を左右することが出来ず、又、競落人の地位に対しては、何等の影響をも及ぼすことのないものであると云ふ外はなく、従つて、右弁済を為したことを理由として、本件競売手続開始決定に対し、異議の申立を為しても、何等の実益もないものであると云ふべく、而して、何等の実益もない申立は、之を許容するに由ないものであるから、本件異議の申立は、結局、理由がないことに帰着する。

(尚、債務者は、右弁済によつて、債権者の有する代金交付請求権の行使について、債権者を代位する権利を取得するものと解されるから、以上の様に解しても、不都合はないと思料される。又、競落人が、代金の支払を為さないときは、法の規定によつて、既に生じた競落許可の決定の効力が動され、根幹的手続の効力は、その確定状態を解除されるに至るから、(再競売)、右異議申立人は、その際、新に、異議の申立を為す機会を取得し得るに至るものと云ふべく、従つて、右の様に解しても、再競売の場合には、何等の不都合も生じないと思料される。)

仍て、主文の通り決定する。

昭和三七年一〇月六日

千葉地方裁判所

裁判官 田 中 正 一

物件目録≪省略≫

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